変わってるって、強さのことだ。

ーーー「きみ、変わってるね。」と言われたら、どう思いますか。

特に日本では「変わった人」というのはネガティブな意味で使われることが多いような気がします。変わってるやつ、馴染めないやつ。社会不適合者、みたいな。

しかし、文学は教えてくれます。「変わった人」こそ強いんだ。他にはない強みを持っているからこそ、「変わった人」はいつも孤独なんだ。

ヘルマン・ヘッセデミアン」の中で、旧約聖書カインとアベルの物語について語られる部分を抜粋してお届けします。ーーー

下の記事の続きです↓

ヘッセ「デミアン」より。カインとアベルの物語。

あの忌々しいフランツ・クロオマアの事件から数か月たった。

最近になって新入生が訪れた。マックス・デミアンという少年だった。

どことなく風変わりな生徒で、見た目よりもずっと老けている感じがした。彼は自分が「少年」である、という印象を誰にも与えなかった。仲間どうしの遊びにも、けんかにも加わらなかったし、同級生の誰とも深く関わろうとはしなかった。ただ、彼が教師たちに対して、自信満々のきっぱりとした態度をとるのが同級生たちを喜ばせていた。

ある日のことだ。僕らは旧約聖書を学んでいた。有名な「カイン」と「アベル」の物語である。それはこういうお話だった。

2人は各々の貢ぎ物を神ヤハウェに捧げる。カインは収穫物を、アベルは肥えた羊の子を捧げたが、ヤハウェアベルの供物に目を留めカインの供物は目を留めなかった。これを恨んだカインはその後、野原にアベルを誘い殺害する。その後、ヤハウェアベルの行方を問われたカインは「知りません。私は弟の番人なのですか?」と答えた。これが人間のついた最初の嘘とされている。しかし、大地に流されたアベルの血はヤハウェに向かって彼の死を訴えた。カインはこの罪により、エデンの東にあるノドの地に追放されたという。この時ヤハウェは、もはやカインが耕作を行っても作物は収穫出来なくなる事を伝えた。また、追放された土地の者たちに殺されることを恐れたカインに対し、ヤハウェは彼を殺す者には七倍の復讐があることを伝え、カインには誰にも殺されないためのカインの刻印をしたという。(Wikipediaより引用)

その日の帰り道。マックス・デミアンは僕に話しかけてきた。今でも忘れられない。彼が僕に与えた第一印象はあまりにも衝撃的だった。

彼はどう考えてもイカれているような驚くべきことを言ってのけたのだ。

「つまり、僕は思うんだがね。このカインの物語は、全く別の解釈もできるんだ。確かに、正しい話であるには違いないさ。でも、先生がみるのとは違った見方をすることもできるんだし、そうしたほうが、大抵は意味が深くなるんだぜ。たとえば、あのカインも、そのひたいにある刻印も、僕たちの聞かされている説明の通りでは物足りない感じがするじゃないか。けんかで弟を殴り殺すなんて、実際ありそうなことだし、そいつがあとで後悔してへこたれてしまうことも、ありうることさ。しかしそいつがその臆病のご褒美に、とくに勲章を授けられて、その勲章が彼を保護したうえに他のみんなを怖がらせる、というのはずいぶん妙な話だと思わないか?

「じっさい簡単なお話だったのさ。この物語の発端になっているのは、刻印だったんだよ。一人の男がいた。そいつには、みんなを怖がらせるようなものがその顔についていた。みんなはその男に手出しをする勇気がなかった。その刻印は、目に見えてわかりやすいものじゃなくてもいい。それはどことなく薄気味悪い雰囲気のことだったのさ。つまり、彼には視線の中にみんなが見慣れているより以上の、才知と勇気とが宿っている、ということなのさ。この男は強かったんだ。この男を見るとみんなはしり込みしたんだ。」

「さて、彼以外の一般の人々というものは、いつだって自分に都合の良いもの、自分を正しいと認めてくれるものを望むんだ。みんなはカインと彼の子孫を怖がった。カインとその子孫たちは皆、例の刻印を持っていたのさ。でも、一般の人はそれをありのままに説明せず、まったく真逆の物として説明しようとした。つまり、この刻印のついているやつらは気味が悪い、という話を受け継いできたんだ。じっさい、気味が悪かったのかもしれないね。そうすることによって、カインとその子孫たちのような強い連中にケチな復讐をしよう、今までに自分たちが受けた恐怖の埋め合わせをしようとしたんだ。わかるかい。」

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「わかるよ!じゃ、つまりカインはちっとも悪い奴じゃなかったってことだね。聖書に書いてあること嘘っぱちなんだ。」僕は言った。

「いや、そうでもあり、そうでもなしだ。こういう古い物語はどこまでも真実なんだけどね、いつも正しく書き記されているとは限らないのさ。つまり、僕の言いたいことはね。カインという奴は素敵な野郎だったんだけど、あまりにも魅力的すぎてみんなに怖がられたばっかりに、こんな物語をくっつけられてしまった、ということなんだよ。この物語は、なんのことはない、世間でよくあるうわさ話の一つなのさ。しかしカインとその子孫が、他のみんなとはどこか違ってて、刻印を持っていた、という部分だけはやっぱり真実だったんだね...」

(続く)

 

「変わり者」って、強さのことだ ーー解説ーー

こいつはすごい。

僕も初めてこの部分を読んだときには衝撃を受けました。

聖書の「カインとアベル」の話は、非常に分かりやすい物語です。しかし、デミアンの言う通り、神が弟を殺した罪人にわざわざ刻印をつけて保護をした、というのはどことなく奇妙な話です。もしデミアンの言う通りで、カインという奴は本当に素敵な野郎だったとしたら。このお話は、私たちに一つの大きな教訓を与えてくれます。

 

現代でも、本当にいろんな方がいて、いろんな人生を歩まれています。それでもほとんどの方は、社会の中で何とか自分の立ち位置を見つけて、働きながら暮らさなければ生きていけません。

その中で、「人間関係」というのはダントツで一番の悩みの種です。

もしかしたらこの記事を読んでくださっている方の中にも、こうしためんどくさい人間関係に煩わされている方がいらっしゃるかもしれません。

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自分はなんとなくまわりに好かれないな・・・

自分では普通にしているつもりなのに、なんとなくみんなが気さくに接してくれない、私、ハブられているのかな・・・

こんなふうに思うこともきっとあると思います。

そんな時、この「カイン」と「アベル」のお話を思い出してほしいのです。そして、堂々と自分にたいしてこう言い張っちゃいましょう。

「わたしは、カインの子孫なんだ」と。

どことなく周りの雰囲気に馴染めないのは、あなたが周りの人たちよりも優れた一面を持っているから。そして、周りの人たちはそんなあなたの優れた部分が怖くて仕方がないから、あなたをハブってしまう。

おそらくこれは事実です。なぜなら、歴史上で何かを変えることのできた強い人間はたいてい変わり者で嫌われ者だった、というお話まであるくらいですから。

自分が嫌われているな、と思ったら、自分は周りよりも優れているから嫉妬されているんだな、と思っちゃいましょう。そうすれば、めんどくさくて仕方が無いような人間関係の悩みも少しだけ軽くなるような気がしてきませんか。

わざわざ自分の中にある優れた部分を捻じ曲げてまで、周りに合わせる必要はまったくありません。うまく衝突をしないように身をかわしながら、それでも自分を変えようとはせずに、堂々とそのままでいればいいのです。

 

そんな強いメッセージを旧約聖書の中から読み取った、このマックス・デミアンという少年はいったいどんな人物なのでしょうか。また明日から、一緒に追っていきたいと思います。

 

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  • 作者:ヘッセ
  • 発売日: 2017/06/13
  • メディア: 文庫